地球暦2015113日(火)天気 曇り

 

3時間のフライトで、ようやく地球に着いた。

船酔いが心配だったが、酔い止めが効いたのか、宇宙空間に吐き散らすことなく無事到着することができた。

 

まず私について書こう。

 

名前はクロードという。ミロキニア星立ラクール大学の3年生だ。

この度、太陽系第三惑星・地球の日本地方に半年間の留学をすることになった。

 

日本語はまだ勉強し始めて一年なので、不安も大きいが、気が向いたときに日本語で日記を書こうと思う。


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地球暦2015115日(木)天気 雨

 

地球の環境に慣れるのは、まだ時間がかかりそうだ。

ミロキニアよりもずっと空気が綺麗だが、酸素が濃すぎてたまにむせ返る。

 

道には大きな車がいつでも通っていて、その度に地面が震える。5年前のミロキニアのソーサリー大火山の噴火を思い出した。

 

それでも、地球は面白い。

こんな小さな星に、とてつもないゴラクが溢れていると聞いた。

だからこそ、私はこの星に来たのだ。

 

地球暦20151111日(水)天気 曇り

 

興味深い発見をした。

地球人はいつも彼らの手に乗るサイズの小さな端末を指先で弄んでいる。

 

道を歩いているとき、端末を手放して遊んでいる子供を見つけた。

私はその端末に初めて触れてみた。

 

側面のスイッチを押すと、全体が薄く光る。

面白いと思い、私はそれを持ち帰ることにした。

 

ミロキニア人の中では大柄な私でも、この端末を持ち帰るのは非常に骨が折れる。

小一時間ほどかかって、滞在している川辺に運んだ。

 

地球暦20151112日(木)天気 曇り

 

調べたところ、この端末は特殊な電波を発しており、電気で動いているらしい。

体内で電気を作れる我々には非常に好都合な代物だ。

 

地球人がこれに夢中になるということは、この端末も一種のゴラクである可能性が高い。

 

私のミッションは、砂で覆われた過酷なミロキニアに、人々の安らぎとなるゴラクを持ち帰ることだ。

この端末がそのヒントになることを願う。

 

地球暦20151115日(日) 天気 雨

 

今日はとてもいい天気だった。

吹き付けるような雨が最高だ。

 

地球人は雨に濡れるのを嫌う。それは潤沢に水が存在するこの地球だからこそ許される贅沢なのだろう。

 

しかし先日手に入れた端末は水に弱い。こんな良い天気にも拘らず、この端末を外に持ち歩けないのが非常に残念だ。

 

地球暦20151121日(土)天気 曇り

 

例の端末の中に面白いものを見つけた。

詳細は明日書く。

 

地球暦20151214日(月)天気 雨

 

日記を書くのをすっかり忘れてしまった。

それほど、ここ数日の私は夢中だった。

 

どういうことか説明しよう。

手に入れた端末の中に最高のゴラクを見つけた。

 

Clash of Clansという一種の遊戯であるが、これが非常に興味深い。

プレイヤーは他人の村から資源を略奪し、その資源で自分の村を育てる。それでも止めどなく攻め込まれるから、それ以上に他人の村を破壊しなければならない。

 

まるでかつての我々のようだ。

人が人を信じられず、奪われる前に躊躇なく奪う。

そうした略奪の歴史を経験した我々には、この遊戯が単純な暇つぶしとは思えない。

 

教養と知性あるものでしか真の価値を見いだせない至高の遊戯ではないか。

Clash of Clansというゴラクは。

 

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地球暦20151222日(火)天気 曇り

 

Clash of Clansの中に不思議な概念を見つけた。

それは「壁」だ。

 

この遊戯では、村を守るのは大砲や弓だけではなく、強固な壁であったりする。

プレイヤーは奪った資源で壁をより強い材質のものに変化させていくのであるが、これが奇妙だ。

 

我々ミロキニア人は身体を透過させられる。

それは視覚的なもののみでなく、身体を変質化させることで、固体の間を通り抜けることもできる。

(その原理は小学校の保健の授業で誰もが習うはずだから、ここでは割愛する)

 

地球人は固体の間を通り抜けることはできない。

彼らの住処は、壁と天井に覆われているが、一箇所か二箇所は、彼らが通り抜けられるように開くようになっている。

 

壁を通り抜けられる我々には、壁を強化する意味を見い出すことはできない。

しかし壁を強くしないと、彼らの共同戦線には加入させてもらえないらしい。

 

非常に面倒なことになった。

 

地球暦20151224日(木)天気 曇り

 

今日は一つショッキングな出来事があった。

 

地球に留学をするにあたって、一般市民の生活を垣間見ることは必要だと考える。

そこで私は適当な民家に入り込んだ。

 

しかしそこで私は二つの過ちを犯した。

 

一つは私の好奇心ゆえに二足歩行をしようとしたことだ。私はClash of Clansのアーチャーというキャラクターに外見を変化させ、民家に忍び込んだ。

 

そしてもう一つは、その過程でその家に住む子供に発見されたことだ。

 

地球人に見つかることは我々留学生にはご法度だ。見つかれば強制退去にもなり得る。

生まれて初めての二足歩行ということもあり、瞬時の移動ができなかったのが原因だ。

 

私は偶然持っていた夢見薬を子供に放ち、眠らせたことで事なきを得た。

非常に危ないところだった。

 

近頃、ミロキニアでは若者が犯罪や規律違反を通信ネットワーク上に自慢するように書き込むことで、周囲から批判される事件が多く起こっているらしい。

私が仮にこの日記を公開したら、同じような事件となるのだろうか。

 

この日記は特に公開するつもりはないが、もし私以外にこれを読んでいる人がいるのならば、この件については内密にしていただきたい。

 

地球歴201616日(水)天気 雨

 

正直言って、Clash of Clansは我々ミロキニア人には生ぬるい。

我々は地球人よりも脳の思考速度が速いため、言うなれば教科書を見ながら試験を解くように、常にすべての状況を冷静に判断しながら攻撃することができる。

 

もしこれをミロキニアに持ち帰るのであれば、難易度はずいぶん高くしなければならない。

 

地球歴201618日(金)天気 曇り

 

今日も壁を塗った。単調である。

タウンホールをレベル9に上げたいのだが、その前に壁のレベルを上げないと地球人は仲間として受け入れてくれない。

 

地球歴2016120日(水)天気 雨

 

今日も壁を塗った。つまらない。

 

地球歴2016128日(木)天気 曇り

 

今日も壁を塗った。そろそろ飽きてきた。

他の遊戯を始めようか迷う。

 

地球歴2016210日(水)天気 雨

 

ついに私はタウンホールのレベルを上げた。

 

実はもうClash of Clansをやめるつもりであった。

壁塗りはつまらないし、地球人のレベルで作った遊戯は易しすぎたからだ。

 

しかし、驚くべきことに、私は再びClash of Clansに熱中している。

 

タウンホールのレベルを上げてからというもの、私はずいぶんと勝てなくなった。

地球人の言うように、壁も強くした。相手の村の配置を盗み、良いところは取り入れた。

脳内で何度もシミュレーションをした。

 

それでも勝てなくなった。

 

日本地方では、困難な状況を「壁にぶつかる」と表現する。

固体を通過できない地球人特有の表現だが、まさに私はいま、「壁」にぶつかっている。

防衛施設の壁ではなく、Clash of Clansの壁だ。

 

地球人の判断スピードに合わせて作られた遊戯であるのに、私の判断がついていかない。

今までの勝利が、随分と遠のいたようだ。

 

壁にぶつかることがない我々ミロキニア人の中で、壁にぶつかったのも、これほど壁を厚くしたのも私が初めてに違いない。

この壁は、ミロキニア人にも通過できない壁だ。

 

これを乗り越えるべきか、打ち破るべきか、私には分からない。

しかし、何とかして壁の向こう側に行ったとき、Clash of Clansは私の中で最高のゴラクになるのであろう。

それまでは、ミロキニアには帰れない。

 

この日記を、まだ壁に直面したことのないすべてのミロキニア人に捧ぐ。



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