※本シリーズは当サイトで掲載しているクラクラ小説のサイドストーリーです。

設定や登場する名称などは実在の人物・団体とは一切関係ありません。

<あらすじ>
かつてクラクラのトッププレイヤーだった大学生・森文人はある日、交通事故で死んだ。
文人の恋人・岬はその3年後、事故の直前に文人が謎のプレイヤー「
clairvoyance」に呼び出されていたことを知る。
文人の死に疑問を抱いた岬は、文人と同じクランにいた「yuzy」こと西谷と
clairvoyance」を探すべく、クランを渡り歩いて情報収集をしていたのだった。



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「浜田先生、校庭の利用規約のプリント、幼稚園にファックスしといて」

すっかり暗くなった午後8時。

静まり返った小学校の中で、職員室だけは今日もまぶしすぎるほどに光を放っている。

 

大半の教師が帰宅する中、テストの答え合わせをしていた岬は、目の前に置かれたA4のプリントを見て静かにため息をついた。

 

小学校の教師というのは、子供が帰宅してからが本当の業務の始まりだ。

一日中子供につきっきりになって走ったり怒鳴ったりしたあとに、待っているのは大量の答え合わせと日誌の記入、保護者との連絡・相談。

 

新入りの岬にはそれに加えて他の教師が嫌う雑用も数多く任されていた。

 

岬はいら立っていた。

yuzy――西谷雄二も、clairvoyanceという謎のプレイヤーも、未だ見つかっていない。

にも拘らず、生きていくために必要な仕事だけは、職場に慣れるにつれて増えていった。

 

「浜田先生、若いから体力はあると思うけれど、あまり遅くならないようにね」

同じように仕事に追われた中年の男性教員が、遠くから独り言のように言う。

 

「ほら、若いんだし色々あるでしょ? 彼氏との待ち合わせとか」

「いえ、私は……」

 

岬が話を濁したことに気まずさを感じたのか、それとも鼻から興味がないのか、男性教員はそれ以上何かを言うことはなかった。

 

岬は2台のスマホのうち、1台を持って席を立つ。ポケットにはモバイルwifi

自宅でしか文人のスマホを操作できないことが煩わしく、wifiを持つことに決めた。

 

廊下に出て職員室の扉を静かに閉める。

静まった空気に乗って、背後から声が聞こえた。

 

「柏木先生、ダメですよ。浜田先生、大学の時に恋人を亡くしてるらしいんです」

「そ、そうなんですか」

「はい、噂ですが……。だから浜田先生に彼氏とか、恋人とかは禁句なんですよ」

「それは申し訳ないことをしたなあ。でも、彼女も恋人でも作ったほうが、もっと明るくなると思うんだけどなあ」

「確かに新人にしては、落ち着きすぎていますからね、彼女」

 

岬は、音を立てずにゆっくりと暗い廊下を進む。

生徒用とは違い、扉のついた教員用トイレは、そこを永遠に使うことのない生徒たちによって清潔に保たれている。


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個室に入って鍵をかけ、スマホを取り出す。

いつものようにClash of Clansを立ち上げると、反射的に資源を回収する。

 

これまで岬は、クラクラを開いても手当たり次第にクランに加入して、情報を集めるだけだった。

しかしその中で、岬は自分にある程度の価値がないとクランには受け入れてもらえないことを知った。

 

放置プレイヤーだと思われたり、ユニットの研究を進めていないために早上げと思われたりすることもあった。

今の岬は配置などの複雑な変更はしていないが、ログインをすれば資源を回収して施設を増築したり研究をしたりする。

時にはマルチプレイやクラン対戦にも出て戦術を覚えていった。

 

チャットを一通り確認するが、数時間前に問いかけたyuzyに関する質問には誰も返事をしない。

試しにclairvoyanceの名を出したが、誰もその意味さえ理解できなかった。

 

clairvoyance

この英単語が透視や千里眼を意味すると知って、岬は鳥肌が立った。

この謎のプレイヤーが文人の死と関係があるとすれば、文人の何を見透かし、何を察知したというのだろうか。

 

これ以上の情報は出てこないと見て、岬は躊躇なくクランを脱退する。

クランでの振る舞いを覚えたこともあり、今ではいきなりクランから外されることは少なくなった。

それでも何も情報が得られないのだから、岬としてはどちらにしても同じことだったが。

 

適当に検索をして、次のクランを探す。

クラン説明にルールを詰め込んだクランはルールに厳しく、キックもされやすい。

なるべく人数が多くアクティブ、かつルールには緩く、攻撃が下手でも責められなさそうなクランを探す。

 

不思議なもので、情報収集を始めてから数か月、かなりの数のクランに加入しては脱退を繰り返していても、見たことのないクランはいくらでも出てくる。

 

どれだけ出入りを繰り返せばyuzyの情報に巡り合えるのか、そもそも最後にはyuzyに出会えるのか、それすら岬にはわからない。

それでも、立ち止まる暇はなかった。

 

時間が経てば経つほど、情報は集まりにくくなる。

そうすれば、文人の死の真相も完全に闇の中だ。


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<シーハーツ観測部>

岬が見つけたのは何の変哲もない40人規模のクランだった。

援軍のやり取りもそれなりにあり、メンバーのタウンホールレベルも高低差が大きい。

 

こういったクランはレベルや実力を問わず、新人を寛容に受け入れる傾向が強い。

岬が迷わず申請をすると、即座に加入が許可された。

 

アカツキ

承認ありがとうございます。

 

kentaro

はじめまして、よろしくお願いします!

 

加入後に挨拶をするとキックされにくい、ということも岬は最近学んだ。

情報が集まらなければすぐに脱退するものといえど、最低でも2日程度はそのクランにいなければ、メンバー全員に対して質問できたことにはならない。

 

岬はチャットを流し読みする。

クラクラの話題だけでなく、他愛もない日常会話がそこには並んでいた。

 

「今日はテストだ」「頑張ってね」「ありがとう」

岬の日常から、そんな取るに足らない一言一言はある日突然奪われた。

 

その原因が文人の不注意による事故なら、それで構わない。

ただ、それが誰かの意図したことであれば、それは暴かなければならない。

岬は一人、唇をかみしめた。

 

岬の加入に反応して、チャットにぽつりぽつりと新しい文字が浮かび上がる。

その中で一つ、古株らしいサブリーダーの打ち込んだ文字が、岬の目を引いた。

 

toshi15

アカツキさんって、もしかして昔このクランにいたアカツキさんですか?

 

文人がこのクランに所属していた?

見慣れない反応に警戒をしながら、岬はゆっくりとチャットに文字を送り出す。

 

アカツキ

toshi15さんは、私のことをご存じなんですか?

 

toshi15

アカツキさんは当時のクラクラ界を代表するプレイヤーでしたからね。

アカツキさんに憧れて、私はこのクランに入ったのです。

その後すぐ脱退されたので、私のことは覚えていらっしゃらないかもしれませんが。

 

岬は唇をかすかに動かしてチャットの文字を認識していく。

3年前……文人の死の少し前だ。

しかし文人は西谷と同じクランに所属していたはずだった。

 

人違いなのか。それとも、西谷のクランから離れてこのクランに加入したというのか。

もし本当に文人がこのクランにいたというのなら、このクランのメンバーはyuzyclairvoyanceについても何か知っているかもしれない。

 

アカツキ

実は私、知人からこのアカウントを受け継いだんです。

ですから、昔のことは知らなくて。ごめんなさい。

 

toshi15

そうでしたか。こちらこそ、申し訳ない。

 

岬は素早く腕時計を見る。

残業中とはいえ、長々とクラクラをしているわけにはいかなかった。

 

トイレに充満する洗剤の独特な匂いに苛つきながらも、岬は素早く指を滑らせる。

 

アカツキ

変なことをお伺いしますが、アカツキがこのクランにいたとき、変わったことはありませんでしたか?

 

toshi15

変わったこと、ですか?

 

アカツキ

気になっていることがあるんです。

例えば怪しい人と話をしていた、とか。

もしくは、clairvoyanceというプレイヤーのこととか。

 

岬は思い切って、核心を突く。

文人のメール通知には、clairvoyanceからのメールが残っていた。

つまり文人とclairvoyanceはかつて同じクランにいたということだ。

 

少しの間があってチャットに白い文字が浮かび上がる。

 

toshi15

正直、わかりません。というより、覚えていないんです。

もう3年前のことですし、怪しい話というくらいですから、私たちに見られるようなやり取りはしないでしょう。

 

アカツキ

そうですか……

 

岬は少し落胆をした。

スマホを握る手の力が抜け、危うくそれをトイレの床に落としそうになる。

 

toshi15

でも、強いて言うならエメラルドのことでしょうか。

 

一転して、岬の肩に力が入る。

一喜一憂させるtoshi15というプレイヤーを少しだけ恨めしく思うが、文句を言う気にもなれなかった。

 

アカツキ

エメラルド? 詳しく教えていただけますか?

 

toshi15

彼がこのクランにいる間、妙にエメラルドが出るようになったんですよ。

それも、このクランの人にだけ、他のクランよりも断然高い頻度でエメラルドの箱が出たんです。

単なる偶然だとは思いますが、彼自身も大量にエメラルドを持っているようで、メンバーの中には彼がエメラルドを撒いているのだという人もいました。

 

アカツキ

エメラルドを撒く……?

 

エメラルドはClash of Clansにおける課金アイテムだ。

村の設備増築にかかる時間や費用を短縮することができ、課金するほか、一定の確率で村に現れるエメラルドの箱を拾うことで手に入る。

 

しかしそれを一ユーザーがコントロールできることなどあり得なかった。

そして文人自身も、日々の生活費をアルバイトで稼ぐので精いっぱいで、クラクラに課金をしている様子はなかった。

 

toshi15

まあ、偶然でしょうから気にしないでください。

 

toshi15というプレイヤーはそんな風に言った。

 

なぜか西谷のクランを脱退した文人。

そして高頻度で出現したエメラルド。

 

不可解なことばかりだった。

しかし、彼の知るアカツキが文人であるなら、その不可解は必ず真相に繋がっているはずだった。

 

アカツキ

toshi15さん、ありがとうございます。

最後にお聞きしますが、yuzyというプレイヤーを知りませんか?

 

岬はこの数か月間、問い続けてきた質問を、toshi15にもぶつける。

しかし続けて浮かび上がる白い文字は、toshi15のものではなかった。

 

エレナ

それには私がお答えしましょう。

 

岬の問いに答えたそのプレイヤーの名前の横には、「リーダー」の文字が並ぶ。

 

エレナ

私はyuzyの居場所を知っています。でもそれを教えるのは、あなたが私の質問に答えてからです。

あなたは誰ですか? そして、なぜアカツキのアカウントを持っているのですか?



To be continued...



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