※本シリーズは当サイトで掲載しているクラクラ小説のサイドストーリーです。設定や登場する名称などは実在の人物・団体とは一切関係ありません。

<あらすじ>
かつてクラクラのトッププレイヤーだった大学生・森文人はある日、交通事故で死んだ。
文人の恋人・岬はその3年後、事故の直前に文人が謎のプレイヤー「
clairvoyance」に呼び出されていたことを知る。
文人の元・相棒であるyuzyの居場所を見つけられないでいた岬だったが、偶然訪れたクランのリーダー・エレナからyuzyの居場所を聞くと、すぐさまクラン「メゾン・ド・ドッグス」に加入し、yuzyへの接触を試みた。
そのころ、3歳児ハジメの体に乗り移った文人は、ハジメの祖父・四六とクラクラ実況を続けていた。

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土曜日の昼下がり。

今日も縁側からは老人と孫の楽しそうな声が聞こえてくる。

 

「ここでポイントとなるのは初めに出したこのガーゴイルじゃ。こいつが端の大工の小屋を削っていることで、クイーンが外を回らずに対空砲を破壊できているのじゃな」

「へえ、小さいけれどバカにできないね、おじいちゃん」

 

<ミカサのジジマゴ実況>は回を重ねるごとにさらに人気を増していた。

はじめは女性プレイヤーからの可愛いもの見たさの支持が多かったものの、複雑な戦術を幼稚園児にもわかるように噛み砕いた解説と、その分析の奥深さから、男性を含む幅広いプレイヤー層からも注目をされつつあった。

 

「そうじゃ、限られたユニット枠を決して無駄にしてはいけない。小さくても使い方次第で勝負を左右する大きな役割を担うようになるのじゃ」

 

四六はわざとらしく大きく頷きながら言う。

プロ意識とでも言うのだろうか。実況を重ねていくうちに、顔を出しておらずとも、人に見られているような話し方をしてしまうようになる。

 

「そうだね、おじいちゃん! そういえば、ボク今度幼稚園の運動会があるんだ。小さいボクだけど、このガーゴイルみたいにかっこいい活躍ができるように頑張るね!」

 

四六は反射的に目を細める。

目の前ではしゃいで見せる幼子はどう見ても可愛い我が孫だった。実際のところ、外見は幼児でも中にいるのは見ず知らずの元大学生の人格だ。

それでも愛しみを覚えずにいられないのは、肉親の性だろうか。

 

「そうじゃな、楽しみにしておるよ……」

不意を突かれた四六は、少しうろたえながら答える。

 

「では、今回の爺孫実況はここまでじゃ。皆の衆、さらばじゃ!」

ハジメの怪訝な顔に気づくと、四六は取り繕うように収録を終えた。

 

* * *

 

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「じいさん、対戦も終わったことだし、次のクランに行こうぜ」

ハジメは放送機材に手をかけながら呼びかける。

 

ジジマゴ実況のもう一つのウリは、応募のあったクランに実際に行って、そこでのクラン対戦の様子から実況動画を取っていることだった。

今回訪れたクランでの収録が終われば、次のクランに移らなければならない。

 

実況動画の人気も上々だ。どんどん注目をされるようになってきているし、視聴者も増えてきた。

ミカサに注目を集めるのは、「奴」と戦ううえで大きな切り札になる。

それに、「奴」に繋がる情報も集まりやすくなる。

 

「おっと、忘れるところだった」

ハジメは思い出して、電源がついたスマホをひょいとつまみ上げる。

器用に片手で持ち代えると、身の丈にはやや大きい画面の上で人差し指を滑らせる。

 

ミカサ

皆さんありがとうございました。お陰でいい動画が撮れました。

ところで、一つお尋ねしたいのですが、最近怪しいプレイヤーを見ていませんか?

 

太郎Z

怪しい? どんなですか?

 

ミカサ

例えば、エメラルドがどうとか言っていたとか、もしくは……その人がクランに来た瞬間にエメラルドが多めに出るようになったとか

 

もともとこの時間にはログインしている人が少ないクランのようだった。

ハジメの問いかけに答えたプレイヤーは、少し考えていたようだったが、少ししてから「わかりませんね」と言った。

 

太郎Z

でも、怪しいプレイヤーなら最近来ましたよ。なんでも、あるプレイヤーを探しているそうで。

なんだっけかな。yuzoとかyozyとかいうプレイヤーを知らないかと言っていましたが。

 

――yuzy? かつての相棒の名を思い出す。

3年前、自分にクランを設立しようと話を持ち掛けてきた、子犬のような屈託ない笑顔も脳裏に浮かぶ。

 

彼が何をしているのか、ハジメは知らない。

彼は生前の自分の隣の部屋に住んでいたが、それも3年前のことだ。

いまはとっくに引っ越してしまっているだろうし、たとえ居場所が分かっても、3歳児の体に入った自分には彼に会いに行く術もない。

 

あの西谷が、なぜ?

いや、人違いか。yuzyなんて、そう珍しい名前ではない。

 

ミカサ

そうですか。

ちなみにそのプレイヤーは?

 

太郎Z

すぐにどこかへ行ってしまいましたよ。

名前は確か……アカツキとかなんとか。

 

アカツキだと! まさか……。

 

死んだ自分のかつてのプレイヤー名に、ハジメは目が回るような感覚に襲われた。

これも人違い? yuzyとアカツキの名前が揃ってなお人違いだというのか。

 

それならば、誰がアカツキを操っている?

死んだ自分のアカウントに誰かがログインしているのか。もしくは、死んだ自分のスマホを誰かが使っているのか。

 

ミカサ

それで、そのアカツキはそのあとどこに行ったんですか?

 

太郎Z

いや、ですからすぐどこかへ行ってしまって。

それに色々なクランを転々としているようですから、このクランのあと行ったクランにも、もういないでしょうね

 

ミカサ

そうですか……。

 

これ以上、このクランから情報を得ることはできそうになかった。

ハジメはそのクランに情報提供と動画撮影の礼をすると、クランを脱退した。

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本命のプレイヤーの情報は手に入らなかった。

しかし、手に入ったのはハジメにとって、本命よりもさらに重要な情報だった。

 

自分のアカウント「アカツキ」が、yuzyを探してクランを彷徨っている。

 

3年前のトップランカーだったアカツキを覚えている人が、どれほどいるかはわからない。

見え方としては、突如クラクラから姿を消したアカツキが、かつての相棒を探し回っているというところだろうか。

 

しかしそのアカツキは自分ではない。

自分のアカウントか、もしくはスマホを手に入れた誰かが、何らかの目的でyuzyを探している。

 

なぜだ? 誰が何のためにyuzyを探しているのか。

この線を辿っていけば、奴――clairvoyanceにもたどり着けるかもしれない。

 

「じいさん、奴の情報は手に入らなかったが、少し気になる情報が入った」

縁側から離れ、テレビの前に腰かけようとした四六を呼び止める。

 

四六は台所の気配を伺うと、静かに手を振って近くに来いと合図した。

ハジメの祖母、つまり四六の妻のことを巻き込む気は一切ないらしい。

 

(しかしおれが死んだあのとき、確かスマホはずっと自分の家に置いておいたはずだが……)

 

ふわりと浮かび上がった疑念を振り払い、ハジメは四六の手招きに従って、黒ずんだ居間の畳を踏みしめた。


To be continued...



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