※本シリーズは当サイトで掲載しているクラクラ小説のサイドストーリーです。設定や登場する名称などは実在の人物・団体とは一切関係ありません。

<あらすじ>
かつてクラクラのトッププレイヤーだった大学生・森文人はある日、交通事故で死んだ。
文人の恋人・岬はその3年後、事故の直前に文人が謎のプレイヤー「
clairvoyance」に呼び出されていたことを知る。

幼稚園の運動会で、蘇った文人はついに岬と再会する。幼児になった文人に戸惑う岬。文人は、そんな岬が自分の死の真相を追っていると知って、文人はそれを止めるため、メゾン・ド・ドッグスに加入して説得をしようとする。


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西谷はクラクラを閉じてベッドに仰向けになった。

ひどく混乱しているのが自分でもわかる。

 

「一体、何がどうなってるんだ……」

静かな休日のホテルの部屋で、西谷は一人、誰にとでもなく問いかける。

 

先ほど見覚えのあるプレイヤーがクランに加入申請をしてきた。

プレイヤーの名はミカサ。近頃、youtubeを中心に話題になっている二人組の実況者だ。

西谷はその動画を見たことはなかったが、名前だけは聞いたことがある。

 

実況のネタ探しにでも来たのだろうか……。

最初はそう思った。

しかし、岬が加入許可を促してきたことで、西谷はそれが平和な訪問でないことを予感した。

 

彼は、クランに入ってくるなり、yuzyに対してこんなことを言った。

自分の正体は死んだ森文人であること。浜田岬と接触したこと。そして、3年前の事件の真相について話したいこと。

 

自分のかつての相棒・森文人は3年前に事故で死んだ。

同じアパートの同じ階に住んでいたのだから、それは知っている。

 

もしかして岬と他の誰かが、共謀して自分を陥れようとしているのではないか。

しかし、西谷はその考えを即座に捨てた。

 

メリットがなさすぎる。文人に成りすまして自分を騙したところで、何も生まれない。

半年もかけて自分を探し出す労力に見合わないし、何より文人を名乗るプレイヤーは、当時のことを詳細に記憶していた。

 

西谷は以前ニュースで見た、前世の記憶があるアメリカ人の少年の話を思い出した。

それとは微妙に異なるのかもしれないが似たようなものかもしれない。

 

西谷は再びクラクラを起動する。

チャット欄は、ミカサとアカツキの発言で埋め尽くされていた。

岬の一件があったせいか、口を挟むクラメンは一人もいない。

 

ミカサ

とにかく、理由はわからないが、俺はこうしてこの世に蘇った。

しかし、俺を殺したやつは、まだどこかで息を潜めている。

 

ミカサ

だから岬、もうこの件を探るのはやめろ。

奴は危険だ。奴はクラクラの世界を破壊しようとしている。

それに伴う実行力も持ち合わせている。そして、俺はその犠牲になった。

 

アカツキ

だからって、文人を殺した人を放っておくなんてできるわけない

 

西谷はまた一つ、大きくため息をついた。

岬の加入時から2回目とはいえ、これ以上クランを荒らされるわけにはいかない。

そして何より、文人を名乗るプレイヤーが文人であると信じる根拠もなければ、信じない根拠もない。

 

まずは話を聞かなければ始まらない。

そう考えて口を挟もうとした時だった。チャットに文字が浮かび上がる。

 

ネル

そういった話の前に、例の件の真相を聞かせてくださいませんか。

私には関係のないことなのかもしれませんが、ここまで見ているのですから、訊く権利はあるはずです。

 

ミカサ

例の件?

 

ネル

エメラルドウィルス。そういうものがあるのでしょう。

 

西谷は、ふいに背筋が寒くなるのを感じた。

この「ネル」というプレイヤーは、やたら核心を突く質問をする。

こちらが訊くのを躊躇うことを、平然と問いかける。

 

数か月前に加入して以来、随所にそういった場面が見られた。

それでいて、訊かれた側の気分を害す訊き方はしないから、口もうまいのかもしれない。

 

yuzy

ネルさんの言う通り、まずはお前の知っていることすべてを話してくれ。

話は、それからだ。

 

「文人の」という言い方はしなかった。

やはり、文人が蘇ったということを信じられずにいる自分を見つけ、西谷は一人薄く笑う。

 

ミカサ

わかった。

今から話すのが俺の知っているすべてであり、事件の全容だ。

このことは、なるべく外には出さないよう、お願いしたい。

 

ミカサはそれだけ言うと、チャット上で流れるように語りだした。

 

* * *

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俺がClairvoyanceと名乗るプレイヤーと出会ったのは、3年前の8月。

ちょうどyuzyとクランを組む、1か月ほど前だ。

 

当時から俺は世界のトップランカーであり続けたし、それなりに目立ってもいた。

そんな俺に、SC社社員を名乗る人物からコンタクトがあった。

 

そいつの指定するクランに行くと、Clairvoyanceと名乗るプレイヤーがいた。

奴は現在も残っているエメラルド配信システムの開発・管理を担当する人物だという。

 

エメラルドはSC社の収益に直結する課金アイテムだ。

恐らく、奴の社内での地位はそれなりに高かったのだろう。

 

そして奴は、こう言った。

「私はクラクラをただのゲームとして終わらせる気はない。トップランカーで、日本国内の影響力もある君と一緒に、私はこのゲームに変革を与えたいんだ」と。

 

そのとき彼は具体的な内容まで話さなかったが、俺はそれを快諾した。

トロ上げにも飽きかけていて、クラクラのためにもっと何かできないかと考えていたからだ。

 

それは秘密のプロジェクトだったため、クランチャット以外で連絡を取ることはなかった。

その連絡のため、俺は設立したばかりのメゾン・ド・ドッグスの運営をyuzyに任せ、よくクランを抜け出した。

 

そのときのことは、本当に悪いと思っている。

 

Clairvoyanceの言う「変革」というのは、エメラルドに関わるものだった。

俺の任務は、エメラルドを効果的にプレイヤーに回収させる方法を考えることだった。

 

そのために、俺は好きなときに好きなだけ、クラメンの村にエメラルドを出現させる権限を得た。

当時実装されていなかったエメラルドの箱も、時には出現させたりもした。

 

しかし、計画が進むにつれ、俺はその「変革」が何を指すものであるか知ることになる。

俺がエメラルドの効果的な出現パターンを実験している間に、奴が生み出したのがエメラルドウィルスだ。

 

エメラルドウィルスは、その名のとおりウィルスだ。

しかし、端末に明確な誤作動を起こさせるものではない。

 

それはエメラルドとして村に出現し、プレイヤーがそのエメラルドを回収すると同時に端末に入り込む。

そして入り込んだウィルスは、奴の操作と同時に端末内の個人情報やネットの閲覧履歴、クラクラ内での行動パターンなど、すべてのデータを抜き取る。

 

奴が言った「クラクラの変革」とは、クラクラを利用した不正なマーケティングシステムの構築だ。

つまり、クラクラを通してプレイヤーの日常を丸裸にし、それを使って金儲けをするということだ。

 

奴が行おうとしているのは、通常許されているデータ活用などではない。

人の行動やSNSの投稿内容などを総合し、性格から家族構成、性的志向などを読み取り、そのデータを秘密裏に企業に売却する。

SNSアカウントやメールアドレスなど、通常は読み取ることのない情報までを連結するため、ネット上の繋がりを全て捨てない限り、たとえ端末を変えてもデータが残り続ける。

 

それを知った俺は、Clairvoyanceに抗議をした。

クラクラはあくまでゲームであり、勝手に人の情報を読み取ることなど許されない。

 

しかしそれは受け入れられなかった。

俺はその日から、エメラルドウィルスのプログラムの破壊と、自分で作ったエメラルド配信データの改竄を試みた。

それによって計画が頓挫するわずかな可能性に望みをかけて。

 

だが、その工作はすぐに奴に気付かれてしまう。

奴は俺がこのことを口外したり、SC社に密告することを恐れたのだろう。

俺を近くの交差点に呼び出し、殺した。

 

俺は、奴を直接説得できるチャンスだと、のこのこと奴の前に姿を現してしまった。

どちらにせよ、俺のスマホはすでにエメラルドウィルスに感染していたから、俺の住所もGPS情報も、すべて奴に取得されていたわけで、その気になれば俺の家に押し掛けることもできた。

 

ともかく奴は、クラクラを利用して世界中の個人情報を収集することを企んだ。

奴がその気になれば、いつでもエメラルドウィルスを起動できる。

そうすれば世界中の個人情報が勝手に利用されるだけでなく、それをもとに莫大な権利が奴に集中する。

 

ただ、それに逆らうことはもはや一般のプレイヤーには不可能だ。

それだけでなく俺のように命を狙われる可能性もある。

だから、俺はそれだけは阻止したいと思い、このクランにやってきたんだ。

 

* * *


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西谷はしばらくその場から動けなくなった。

クラクラを利用して世界中のプレイヤーデータを掌握し、それを金儲けに使う。

そして金が動くということは権力も集まるということだ。

 

アカツキ

そんなこと……。

 

ミカサ

できるわけないと思うだろう。だが、奴ならできる。

 

yuzy

いや、たとえできたとしても国や警察、それにSC社が黙っているわけがない。

 

ミカサ

奴の手口の巧妙なところは、あくまで一般ユーザーに検証を依頼しているところだ。

しかもクラクラ以外の連絡手段は一切用いていない。

こんなに遠く離れた島国からどこに抗議をしようと、一般ユーザーの言いがかりとして処理されてしまうだろう。

 

ミカサはあくまで淡々と説明をした。

その言い様に西谷は、文人の面影を見たような気がした。

 

西谷はまだすべてを理解し、納得できたわけではなかった。

しかし、聞いた限りには辻褄が合っているようだった。

文人が語る「事実」は、西谷の知る事実と内容も時期も一致している。

 

少なくとも、不思議なことではありながら、この語り手が文人であるのは間違いなさそうだと思った。

 

yuzy

それで、そのエメラルドウィルスというのはどのくらい広まっているんだ。

 

ミカサ

恐らく、直近2年間ほどでエメラルドを入手したプレイヤーすべてだ。

 

アカツキ

それって、ほぼ全プレイヤーじゃ……。

 

未だ実感のない状況ながら、どことなく輪郭の見えない絶望感が胸の中で広がる。

たかがゲームとはいえ、やっと手にした居場所が、自分の意図しないものに変えられようとしている。

 

誰もが発する言葉を失い、チャットを沈黙が支配する。

その時だった。音もなく、そして唐突に、チャットが動き出した。

 

その文字の送り主は、岬でも文人でも、また西谷自身でもなかった。

チャットの文字は、冷たく、短く、画面に張り付いている。

 

ネル

話は終わりか。

森文人、まさか生きていたとはな。




To be continued...



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