※本シリーズは当サイトで掲載しているクラクラ小説のサイドストーリーです。設定や登場する名称などは実在の人物・団体とは一切関係ありません。

<あらすじ>
かつてクラクラのトッププレイヤーだった大学生・森文人はある日、交通事故で死んだ。
文人の恋人・岬はその3年後、事故の直前に文人が謎のプレイヤー「clairvoyance」に呼び出されていたことを知る。

「メゾン・ド・ドッグス」に侵入していた「clairvoyance」のサブアカウント「ネル」は、エメラルドウィルスの発動を予告したのちホームクラン「聖王国シーハーツ」に戻っていった。残されたクラメンたちに、絶望の2文字が浮かぶ……。


5a116bad77ea680f25303e27e3445376_s

yuzy

なに? 文人は子供の姿になって甦った?

蘇ったということは、お前やっぱり……。

 

ミカサ

ああ、死んだよ。

 

ネルがクランを去った後、沈黙したクランチャットでミカサはあっさりと言った。

想像を超えた出来事の連続に、西谷は熱くなる額を両手で抑えた。

 

yuzy

クラクラを通したウィルス拡散、全世界のパーソナルデータが盗み出され、全プレイヤーが危険にさらされる……。

そんなスケールの話の後に、一度は死んだが子供になって甦っただって?

そんな話……。

 

ミカサ

信じられないかもしれないな。

だが、事実だ。俺がどんな状態かは、岬も見ている。

 

西谷は机に置いたノートパソコンで、検索をかける。

「クラクラ実況 ミカサ」

表示される数百件のサムネイルに映っているのはどれも老人と子供の笑顔だ。

 

この子供が文人だというのか……。

 

ミカサ

何も生まれ変わりってわけじゃない。

この身体の持ち主、三笠ハジメに、少しの間居候しているだけだ。

 

そういう問題じゃないだろ……。

当たり前のように言い放つ文人に少し苛つきながら、西谷は唇を強く噛む。

ホテルの空気で乾燥した唇が裂け、血の味を覚える。

 

ゴールド・ロジャー

リーダー……我々はどうすれば

 

キムタク

やはり警察か運営会社に通報するべきなのではないでしょうか

 

サブリーダーたちの不安な声も画面上に小さく映る。

混乱しているのはクラメンたちも同じだ。

クランとクラメンを守り、自分自身を守るためには、冷静な決断をしなければならない。

 

yuzy

いえ、それはまだやめましょう。

奴がその気になればクラクラのデータだけでなく世界中のプレイヤーの身が危ない。

いまは奴を刺激せず、言いなりになっておくことが大切です。

 

佐藤

でも、それでは……。

 

そう、それでは結局、Clairvoyanceにエメラルドウィルスを発動されてしまうことに変わりはない。

もうどうにもならないものなのか。

 

エメラルドウィルスが発動されても、初めはその被害に誰も気づかないだろう。

しかしクラクラで金と権力が動けば、エメラルドウィルスは明るみになり、クラクラの世界は破壊されてしまう。

そうなればクラクラはこれまでのクラクラでなくなり、多くの時間をかけて作った村も、クラクラで築き上げた人間関係も、すべてが泡沫と化す。

 

キムタク

そんなの嫌です。これまでにやってきたこと全部が無駄になるなんて……。

 

クランチャットの黒い背景が余計に暗く沈んだような気がした。

絶望という言葉が現実に目の前に迫る。


PAK75_dashsuru20140823110148_TP_V

スマホの画面に反射して、西谷は自分の顔が映っているのに気付いた。

疲れ切っている。

途方もない文人の話を理解するだけでも困難であるにも拘らず、探し求めていた敵が突然自分のクランの内側から現れたのだ。

 

そう、Clairvoyanceは明確な敵だ。

クラン対戦の敵や、自分の村を破壊する敵ではなく、もっと明確に悪意を持った敵。

 

その敵を目の前に、自分はなす術もなく間抜けに立ち尽くしている。

その無力さでスマホの画面をたたき割る衝動に駆られた時だった。

ふわりとチャットに文字が浮かぶ。

 

ミカサ

対抗する方法は、ないでもない。

 

* * *


CAMERAjyosi_takebe_TP_V


その言葉に、岬は溜まった唾液を一気に飲み込んだ。

元から静かな真っ白の自室が、いつもより余計に静かになった気がした。

 

yuzy

あの敵を止める方法があるというのか……?

 

西谷の言葉に、文人はすぐには答えを返さなかった。

文人がどことなく自信なさげであることが、岬にはわかった。

 

アカツキ

あまり自信がないの?

 

文人はまた言い淀む。

 

ミカサ

いや、そうじゃないんだ……。

ただ……これができるのは、岬だけだ。

岬にすべてがかかっている。

 

アカツキ

どういうこと……?

 

突然持ち出された自分の名に岬はびくりと反応すると、落ち着かない心を抑えるためにベッドに寝転んだ。

一瞬ほころんだチャットの雰囲気を、再び緊張感が支配する。

 

ミカサ

アカツキのアカウントに特殊な開発者用のプログラムを組み込んでいるのは前に話した通りだ。

それを使って、俺はエメラルドウィルスのテストをしていた。

 

ミカサ

その中には、開発者権限で不正なアカウントを凍結できる機能も含まれている。

最近のチート撲滅で使用されている、「サイキックオクトパス」もその類だ。

サイキックオクトパスがすべてのアカウントをクローリングし、チート行為のあるアカウントを見つけ次第凍結しているのだ。

 

yuzy

つまり、開発者用プログラムを使って、エメラルドウィルスの根源であるClairvoyanceのアカウントを破壊するということか。

 

ミカサ

そういうことだ。

 

岬は何度もチャットのログを読み直し、話に遅れないようにしていた。

ふと、大学時代の文人と西谷を思い出す。

 

クールで物静かな文人と、活発で人付き合いの良い西谷。

タイプとしては正反対の二人だったが、二人とも共通して頭がよかった。

 

そんな二人がまた、手を取り合って協力している。

岬は、そんな昔を思い出して、少しだけ泣きそうになった。

 

yuzy

だが、それならそんな難しい話じゃないはずだ。

Clairvoyanceのアカウントをプログラムで検査して、潰せばいい。

 

ミカサ

そう、ただ不正ソフトを持っているだけならな。

だから奴はウィルスを見つからないように、奴の村のどこかに隠している。

その隠し場所を、開発用プログラムが実装されているアカツキで破壊すれば、奴のアカウントは永久に凍結される。

 

アカツキ

その場所はわからないの?

 

ミカサ

エメラルドウィルスと言えど、外見はエメラルドだ。

エメラルドが貯蔵されている施設はどこだかわかるか?

 

岬は、画面を拡大して自分の村の画面を見つめる。

金庫はゴールド、タンクはエリクサー。エメラルドの貯蔵施設は見当たらない。

 

アカツキ

エメラルドの施設なんて、あるの?

 

ミカサ

いや、ない。

ただ、見当はつく。

 

yuzy

タウンホールか。

 

西谷は間髪入れずに答える。

その答えがいま目の前にあるかのような、簡潔で自信にあふれた物言いに、岬は少しだけ劣等感を覚えた。

 

ミカサ

恐らくそうだ。

クランの城もありそうだが、昔のクランの城は貯蔵機能がなかった。

クラクラの初期からあったエメラルドを貯蔵する施設は、恐らくタウンホールだろう。

Clairvoyanceにフレチャレを挑んで、奴のタウンホールを潰せ。

 

アカツキ

Clairvoyanceのタウンホールを、潰す……

 

ミカサ

そうだ。岬、お前がやるしかないんだ。

 

岬はスマホを枕の上にそっと置き、部屋着の腰の部分で、汗で湿った手をぐっと拭った。

体中が熱い。自分の手にクラクラのすべてがかかっている。

 

そう考えると、全身の血が頭に上ってくるようで、岬はひどく眩暈を覚えた。

 

ミカサ

普通に言っているけれど、下手したらお前も危険な勝負だ。

できればやらせたくない。

 

アカツキ

それでも、やるよ。

 

そう、どれだけ危険でも、やらなければならない。

 

初めは文人の死の真相を探るだけが目的だった。

だが今は違う。文人の敵を討ち、文人の愛したクラクラを守らなければならない。

 

ミカサ

わかった。それならば……

 

岬は、遠くで三日月がゆっくりと揺らいでいるのを見た。


To be continued...



外伝・第十話>


外伝・第十二話>

本編はこちら>