※本シリーズは当サイトで掲載しているクラクラ小説のサイドストーリーです。設定や登場する名称などは実在の人物・団体とは一切関係ありません。


<あらすじ>

かつてクラクラのトッププレイヤーだった大学生・森文人はある日、交通事故で死んだ。

文人の恋人・岬はその3年後、事故の直前に文人が謎のプレイヤー「clairvoyance」に呼び出されていたことを知る。
エメラルドウィルスの発動が刻一刻と迫る中、文人と岬はClairvoyanceの根城、「聖王国シーハーツ」に乗り込む。Clairvoyanceのタウンホールを破壊し、エメラルドウィルスを凍結させることができるのか。


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クラン「聖王国シーハーツ」はどことなく不気味な雰囲気を湛えていた。

それがぽっかりと抜け落ちたような黒いクランの紋章のせいなのか、自分の杞憂であるのか、岬には判断がつかなかった。

 

クランのメンバーは文人と岬を除いて3人。そのうち二つは見覚えのある名前だった。

「メゾン・ド・ドッグス」にいたネルと、「シーハーツ観測部」にいたエレナだ。

 

そして残るもう一つの名は「クレア」。これが、Clairvoyanceの本アカウントということか。

クラン移動前の会話を思い出す。

 

タウンホールレベル8のネルの村を見て、岬はこの村から全壊をとるのは簡単だと思った。

タウンホールの破壊ではなく、星3つをとることもできると思った。

その時、見透かすように文人は言った。

 

ミカサ

奴の本アカはタウンホール11だ。

本タウンホール9の岬が相手にできるような村じゃない。

 

アカツキ

じゃあどうすれば……

 

ミカサ

とりあえず今はこのままでいい。油断してくれるからな。

そして奴と戦う前にありったけのエメラルドを使って村を強化しろ。

防衛施設はいい。研究とヒーローだけはできる限り強くするんだ。

 

そう、ユニットだけでも強くすれば勝機はある。

岬はクランメンバーのタブからクレアの村を探す。

 

村の中心には荘厳なタウンホール。その横にはイーグル砲。

そしてそれを挟み込むように配置されたインフェルノタワー。

 

それ以外の防衛施設も最大レベルまで高められており、こちらも最大レベルのヒーローたちが、村の隙間を徘徊している。

タウンホールの周辺に余分な施設がないためか、村全体でみると少しすっきりした印象だった。

 

岬がクレアの村を一通り眺め終わるころ、ぽつりとチャットに赤い通知が点る。

 

クレア

おや、私は一人で来いといったつもりだったんですがねえ。

 

挑発のためか、必要以上に余裕を滲ませる口調。

奴に違いなかった。

 

クレア

私は約束を守らない人間が嫌いでね。

キックしてしまいますよ。

 

ミカサ

待ってくれ!

俺はこいつも含めて話がしたいんだ。

 

Clairvoyanceは少しだけ考えたようで、それから「私には用がないんですがね」と言った。

 

ミカサ

少しだけ話をしようぜ。

もしあんたの言うことに納得ができたら、俺はもう一度あんたと組んでもいい。

 

岬はその言葉に目を疑い、何か書き込もうかと迷った。

しかし、きっと文人にも考えがあるのだろうと、黙ってやり取りを見守る。

 

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クレア

いいでしょう。何が話したいのです?

 

ミカサ

そもそもよく分からないんだ。

なぜあんたがそんなにクラクラを利用して金を儲けることに拘るのかが。

 

クレア

何かと思えばそんなことか。

クラクラはSCが生み出した最高のゲームですよ。

他の仲良しこよしのゲームとは違う。人間の欲望、怒り、妬みがそのままプレイに現れる。

現実世界も同じだ。だからこそ、金儲けに使える。

 

ミカサ

本当にそれだけか?

 

クレア

何が言いたいのです?

 

ミカサ

お前の欲やら僻みも現れているんじゃないかってことさ。

 

文人は何をしているの? こんなときに相手の神経を逆なでするようなことを、わざと……。

 

しかし、そこに岬の入り込むすきはなかった。

岬は再び自分の部隊を確認する。

 

実際にClairvoyanceと戦うことになれば、村を強化し、キャンプを大きくした分のユニットも作らなければならない。

それまでは文人に任せよう。自分は、自分の役割を果たさなければならない。

 

クレア

不愉快なことを言う人ですね。

 

ミカサ

事実を言っているまでさ。人は真実と向き合うと逃げ出したくなる。

SC社でエメラルドシステムを作り上げたあんたは、それを金儲けに使おうとするも、その考えは社に受け入れられなかった。

ビジネスよりもポリシーを重視する体制に我慢できなくなったあんたは、俺のような外部のトッププレイヤーと組んで独自にエメラルドウィルスを開発し、発動しようとした。

 

クレア

お前に何がわかるのです……

崇高なシステム、それだけで世界のすべての金と権力を掌握できる力を持ちながら、それを十分に生かすことなく終わる無念さ。

社のために苦労を重ねて作ったものを、半端な課金システムとしてしか活用できないもどかしさ。

この計画は、私を拒絶し、受け入れなかったSC社とすべてのクラクラプレイヤーへの復讐なのですよ。

 

ミカサ

やっと本音を喋ったな。リュージ・リチャードソン

 

クレア

その名で私を呼ぶな! その名は捨てた……。

私はクラクラプレイヤー、Clairvoyanceだ!

 

クランチャットを通して、一寸の隙も見せぬ言葉の切り付けあいが行われるのを、岬は力を込めて見ていた。

自然と言葉が脳内で再生されるような、そんな緊張感が、黒を背景に白く光る。

 

チャット上のClairvoyanceはいつもの様子ではなかった。

文人の言葉に触発され、少しだけ熱が入っているようだった。

 

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ミカサ

クラクラプレイヤー、ね。

それなら試してみるかい?

 

クレア

試すだと? 何をです。

 

ミカサ

俺の愛したクラクラの、そのプレイヤーを名乗る資格が、あんたにあるかどうかを、さ。

 

その言葉で、岬の指に力が込められる。

自分が戦うのだ。そして、Clairvoyanceの野望を砕き、文人の愛したクラクラを守るのだ。

 

クレア

面白いことを言いますね。

資格? 開発者である私に、資格がないとでも言うのですか。

 

ミカサ

それはやってみないとわからないぜ。

フレンドチャレンジだ。村を出しな。

 

ここまでは文人の計算通りに進んでいる。

そう思うと、少しだけ岬は安心することができた。

 

Clairvoyanceが村を出したら、一気にエメラルドを使って村を強化し、タウンホールを破壊する。

強化のためのエメラルドは、文人が以前、開発ツールで大量に出現させたものが十分すぎるほどに残っていた。

 

クレア

戦うのは、あなたではなく、あなたのガールフレンドということか。

 

岬の心臓が大きく脈打つ。

見透かされている。先ほどの自信が一瞬にして霧散する。

 

もしかして、この男はこちらの思惑をすべて見通しているのではないか。

そんな思いが岬の脳内に絶望の幕を下ろし始める。

 

ミカサ

そうだ。「あんたのせいで」いまの俺は十分に戦うことができない体だからな。

 

クレア

ふ、トラックに轢かれたのですからね。普通なら死んでいますよ。

いいでしょう、村を出します。

 

ウチの村に勝てるかな?

 偵察   攻撃 

 

きた!

岬は逸る気持ちを抑えて一つ一つ確実にボタンを押す。

タウンホールを選択し、着工、そしてエメラルドを使用……。

 

「あれ……?」

しかし、画面は工事中の画面で止まっていた。

エメラルドを使おうとしても、そのボタンが反応しない。

スマホの故障だろうかと他の位置を触ってみると、そちらには反応がある。

 

クレア

どうしました。早く攻めなさい。

 

ミカサ

岬、どうした。攻撃だ!

 

アカツキ

いや、でも、エメラルドが……!

 

なぜエメラルドだけ使えないのか。

もう一度画面を見ると。見慣れない赤文字が表示されていた。

 

現在エメラルドはメンテナンス中です! ご迷惑をおかけし申し訳ありません

 

クレア

ああ、エメラルドですか。

ご迷惑をおかけし申し訳ありませんね。現在、エメラルドはエメラルドウィルスの移行のために使用できなくなっているのですよ。

ご心配なく、この戦いが終わり次第、エメラルドは使用できるようになりますので。

ま、ウィルス化しているわけですがね。

 

「くそ……」

岬はベッドを思い切り叩いた。

ばすん、という音が空しく響いて、静寂が再度室内を支配する。

 

ミカサ

岬、構わない。

今のままで行け! 奴に勝て!

 

このまま……?

タウンホール9の戦力で、タウンホール11相手にタウンホールを破壊する?

 

無理だ、と思った。

しかしそれではクラクラが終わってしまう。

 

クレア

勝つですって? そんな貧相な村で私に?

笑わせますね。

 

「うるさい……!」

岬は一人、奥歯を噛む。

 

アカツキ

やるしかないじゃない……!

文人、見ててね。私、勝つよ。

 

岬は口に溜まった唾を飲み下し、「攻撃」の赤いボタンに親指を置いた。


To be continued...



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